2015.04.21
2日目の修行項目
(1) 勤行(拝詞)
(2) 床固め(座禅)
(3) 壇張り(食事)
(4) 金峯山抖擻
(5) 金峯山での勤行
(6) 湯殿山で滝行
(7) 湯殿山ご神体参り
(8) 湯殿山での勤行
(9) 大聖坊での勤行
(10) 床固め(座禅)
(11) 壇張り(食事)
(12) 夜間抖擻
(13) 夜間抖擻での勤行
(14) 南蛮燻し
2日目も勤行(ごんぎょう・拝詞)から始まった。昨日、時間をみて詞の暗記を試みたので、だいぶ覚えてきた。覚えると言葉に気持ちが乗ってくる感じがして、それがどこかに伝わっているような気になってくる。声を出すことが気持ちいい。
続いて床固めだ。お互いに礼、座る場所にも礼をして、座禅を組む。眠くはないが、焦点が襖の絵柄から自然にずれてきて、何となく自分がどこかに浮かんでいるような気持ちよさを感じる。どれぐらいの時間が経ったのかわからない。ふわーっとしているうちに床固めは終了。
次は待ちに待った壇張り(食事)。早く食べているのに、一口一口一生懸命味わおうとしている自分に気付く。漬物がおいしい。お汁も美味しい。口の中の細胞すべてが食べ物の味を、逃さず感じようとしているかのよう。でもまったく腹は膨れない。
おにぎりをもって山へ出発。本来は月山に入るのだが、すでに冬季閉山となってしまっていたため、金峯山に向かう。車で40分ほど移動し、そこから山に入っていく。結構きつい山道だ。途中2か所ほど、苔むした祠で勤行を上げ、2~3時間ほど歩き続ける。前日同様、だんだん体が慣れてくる。秋晴れで紅葉も美しく、動かし続けている体がさらに喜んでいるのが分かる。枯草を踏む足が、だんだん草をしっかり掴んでは離し、掴んでは離し、という具合に、しっかり地に足を着けて歩いている感じがしてきた。
金峯山の頂上で一休み。雪を被った月山をはじめ、まわりの山々が一望できる素晴らしい場所だ。ここでおにぎりを食べることになった。嬉しい!子供のころ、大好物のオムライスを食べる前の心境にそっくりで可笑しくなる。包みを広げてみると、おにぎり2つに漬物、それに味噌のシソ巻き3本。この時だけは急いで食べなくてもよかった。
おコメの味が素晴らしい!そしていいころ合いに出てくる梅干しの絶妙なこと。それから、何口かに一度ずつ大事に食べた漬物とシソ巻きも、この世のものとは思えないほど美味しく感じた。地味なおかずである漬物やシソ巻きなどの一つひとつがこんなに美味しいものだったとは、まったく気づかなかった!心から有難く感じる。尾崎さんと、その美味しさをひとしきり感動しながら語り合ったほどだ。
頂上から、枯葉で滑りやすい山道を早足で下っていく。星野さんの後を付いていくのがやっとだったが、とても体が軽かった。“山駆け”とはこういうものを言うのだろうか?車を停めてあった場所まで、小一時間で駆け降りた。膝がちょっと痛かった。
金峰山麓から車で1時間ほど移動して、湯殿山に到着。なんとおととい初雪が降ったとかで、あちこちに雪が積もっている。山頂付近は真っ白く雪化粧しているではないか。その雪をかき分けて川に降りてゆく。今日はなんと、この川の上流にある滝に入るのだ!!しかも降ったばかりの雪が溶けた水にだ!
川に降りるなり、「この先はフンドシで!」との星野さんのお言葉。滝まで川を歩いて行くようだ。滝の勢いで起こる風が当たり、凍えるような寒さだ。冷たすぎて、歩いているうちにあっという間に足が痛くなってくる。
何とか滝壺に到着。尾崎さんも僕もすでに全身ブルブルだ。滝から凄い風が吹きつけてくる。滝しぶきを受けながら、星野さんに倣って気合を入れる運動をした。この滝に入るなんて、まったく信じられなかった。
おもむろに星野さんが初めに滝に入っていった。動じていない。僕はブルブル震えながら、しぶきを受けながらシャッターを切った。しばらくしても、星野さんはまだ滝の中で勤行していた。「もしかして、まだ撮影が終わってないと思っているのでは?」星野さんは僕よりもひと回りも歳が上だ。いくら山伏といっても・・・、と急に心配になって、慌てて星野さんに何度も撮影終了の“OK”サインを出した。それでもなかなか出てこない。大丈夫だろうか・・・。しばらく経って、星野さんは当たり前な顔をして、ゆっくりと滝から出てきた。信じられない!さすがだ。でもちょっとホッとする。
次は尾崎さん。尾崎さんは、気合体操のころからどんどん気合が入ってきていて、燃え出さんばかりの形相になっていた。そのままガシガシと、ためらわず滝に突入していった。
「凄い、尾崎さんも雪解け水の滝に入っている!!」
尾崎さんの勇姿もブルブルの手でカメラに収める。2分ぐらい入っていただろうか?尾崎さんが滝から出てきた。険しいが、表情に爽快感が漂っている。
いよいよ僕の番だ。カメラを岩陰に置いてもう一回気合体操をして、覚悟を決めた。川に入る時、もはや足の冷たさなんて感じなかった。「エイッ!」滝の真下に突入。もの凄い量の水が怒涛のごとく頭や肩に次から次へとのしかかってくる。滝の水圧というのは、見た目の何倍もあるのだ、と気合と冷たさと水圧の中で、おぼろげに思ったのを憶えている。
頭から滝に打たれながら、目を開いて外の景色を眺めてみて気付いた。
「凄い!何とかなっているではないか!」
もちろん思い切り冷たいし強烈な水圧だけれど、自分は今、雪解け水の滝に打たれていて、ちゃんと周りを見られている・・・。感動的だった。
その時、前日星野さんが話してくれたことをふと思い出した。それは、
「滝行の時は、自分と滝が混ざるんだよ。」
という言葉だった。滝と仲良くなることに違いない、僕は滝に打たれながらふとそう思った。
「よし、この際滝に抵抗しているだけではなく、力を抜いて滝の冷たさを全身で感じてみようではないか!」
そう思い、水圧でよろけてしまわないように態勢をととのえ、一気に全身の力を抜いて水を感じてみた。するとどうだろう。力を抜いたとたんに、背中全体がぽかぽかと、あたかもお湯を優しくかけられているように温かくなったのだ!!
「どうしたんだ、何が起こったんだ!!」
無我夢中ではあったが、その不思議さに驚き、想いを巡らせ、そして、
「人の体って凄げえ、凄げえ、凄げえ!!」
と、滝の中で思わず歓喜の声を上げてしまっていた。
まったく予想もしていなかった出来事だった。まさか冷たい滝の中で、暖かさを感じることになろうとは夢にも思ってはいなかった・・・。
しばしその感動を味わったのち、滝から出た。暖かさと充足感と喜びとが、濡れたフンドシ一丁の体を満たしていた。もはや震えもまったく無くなっていた。尾崎さんもまったく震えておらず、爽快な表情で体の水滴を拭っていた。お互いに凄い経験ができたことを喜び、滝行の成功を分かち合った。
湯殿山のご神体では、撮影は禁止だった。どんな場所なのかまるで分らないまま星野さんについてご神体拝所に入場していった。そこには、直径7~8mほどの、黒光りした鍾乳石のような岩があって、その上部から熱いお湯が湧き出ていた。この岩がご神体のようだった。湧き出るお湯がご神体のまわりに流れて来ていて、滝行のあとだったこともありその温かさがとても足に優しかった。滝行のときから入り続けていた気合が、このご神体のお湯ですっかり緩んだのが分かった。なんだかもったいない気がしてもう一度気合を入れようとしたが、もううまくは入らなかった。ここで神主さんのお祓いを受けたあと、ご神体に向かって声高らかに勤行を上げた。
宿坊に戻ってしばらく休憩したのち、夕方の勤行。山を歩いたこと、滝に打たれたこと、ご神体に触れたことなど、今日あったたくさんのことを想い浮かべながら、自然に対する敬意や感謝の気持ちを込めて詞を拝することができた。声を出すことが気持ちいい。
勤行のあとは座禅である。お腹がペコペコなので、座っているときグーグーと鳴る。昼間の荒行でさすがに眠くなった。
一瞬で終わってしまう食事でも、やはり嬉しい。ご飯とお新香は盛られて出てくるが、お汁は自分でよそうことになっていた。急いでいたためにちょっと少なめによそってしまい、あっという間にお椀が空っぽに・・・。うう後悔。こんな子供のような感情が起こっていることに、思わず苦笑いする。
今夜は山には入らず、平野部にある祠に勤行を唱えた。それから月山がよく見える場所までひたすら歩き、星空にそびえたつ月山を仰ぎ見て勤行を唱えた。途中、山の上に不思議な動きをする光が目に入った。あとで尾崎さんにその話をしたら、「ああ、UFOがいましたね」とのこと。非日常に身を置いていたからか、そんなこともあるだろう、といった程度のことに感じたのが不思議だった。満天の星々に見つめられながら宿坊に歩いた。
「南蛮燻をおこなう!」「え!うっ、受けたもう!」
まさか今夜も南蛮燻しをするとは思わなかった。ショックのような、でもちょっと嬉しいような、自分でも意外な心の動きだった。
夕べと同じように、小部屋に入り待つ。パリパリと南蛮が燃えている音が響く。一気に部屋中に煙が充満する。まったく前が見えない。むせる。昨日の経験を生かすつもりだったが、なかなか思うようにいかない。咳が止まらず、昨日にも増して苦しかった。後で聞いたら、「南蛮を全部使ってしまったよ」とのこと、苦しかったわけだ。
大聖坊
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