#05

文・写真:高砂淳二

2015.05.25

最終日。勤行〜床固め

3日目の修行項目
(1) 勤行(拝詞)
(2) 床固め(座禅)
(3) 羽黒山三神合祭殿参り~2446の石段~
(4) 三神合祭殿正式参拝
(5) 三神合祭殿での勤行
(6) 火渡り
(7) お札授与
~これで修行は終了~
山伏温泉へ
精進料理をいただく

歯を磨かず、顔を洗わずの状態での3日目を迎えた。特に支障はない。普段は、「歯を磨かなければ、顔を洗わなければ、細菌に気を付けなければ、ビタミンを飲まなければ・・・」といろいろな決め事があって、それをしないと大変、という感覚になりがちだけれども、本当に大変だったのだろうか、という気持ちが湧いてくる。

最終日も勤行(ごんぎょう・拝詞)から始まった。内容も大分覚えてきたからか、声にも張りが出てきたように思う。パキッと目が覚める。

次の床固めでは、目の前の襖の絵柄を眺めるともなく眺めているうちに、いろんな雑念が次々に湧いてくる。いかんいかん、雑念だらけでは瞑想にならないではないか。
「最後だし、こうなったら頭に浮かんだ雑念に、存分に思いを巡らせてみよう」
イチかバチかそう思うことにした。頭の中に大きくスペースを空けて、雑念を待つ。すると不思議なことに、雑念のかけらもそのスペースに入ってこないのだ!大きく開けたスペースだけが脳内に広がり、頭が澄んできた。本当に不思議なものだ。その後は空っぽな気持ちですっきりと床固めを続けることができた。

羽黒山三神合祭殿参り(2446の石段)〜三神合祭殿正式参拝〜三神合祭殿での勤行

朝ごはん抜きで、そのまま羽黒神社に登る。お腹はペコペコだが、初めから朝の壇張り(食事)は抜き、と言い渡されていたので、期待をしていない分空腹感は感じなかった。清々しい気持ちで境内に到着。1日目よりも楽に登れた。体が軽い。

本殿の奥に通され、まずお祓いを受ける。続いてそこで勤行を行った。3日間の総まとめ発表会のような雰囲気。そのあと一般客との間に幕が下ろされる。特別な儀式が行われるようで、ちょっとドキドキする。指示に従って目を閉じて深くお辞儀をしている状態のところに、何やらスズの大きな塊のようなもので背中をガサガサと叩かれる。何が行われているのかはまったく分からないのだが、お祓いの秘儀のようなものだろうか?続いて玉串を神前に捧げ、拝礼させていただく。後ろの幕が開き、秘密の儀式は終了。特別感溢れる正式参拝だった。

本殿を出たところでお神酒が用意されていた。おちょこでほんの少しだけだったが、この時のお酒は、本当に美味かった・・・。

火渡り

羽黒山から下山した。“山に入る”ということは、山伏にとって母親の胎内に戻る、ということだそうで、そこで修行をして、禊いで、懺悔して、そして下山して生まれ変わるのだという。その生まれ変わった時に、産湯を使う意味で、火渡りを行うということだった。

“火渡り”と聞いて、炭状になった熱い木々の燃えカスの上を裸足で走るのかと思っていたが、星野さんの火渡りは、木々で作ったたき火のような火の上を、「おぎゃー!」と言いながら飛び越す、というものだった。これは珍しく想像していたものよりも楽だったので、最後の修行はあっけなく終了した。いよいよこれで、僕は生まれ変わったのだ!

お札授与

普通お札というと、神社で神主さんが祈りを捧げてくださったものを言うが、星野さんは、僕らが何度もそれに向かって勤行を上げた、その神棚の中に供えていたお札を、卒業証書のように、大事に手渡してくださった。言葉に気持ちが乗った自分の祝詞が染みこんだお札。嬉しいではないか。

山伏温泉へ〜精進料理をいただく

お腹が減っていたが、星野さんの奥様が精進料理を作ってくださっている間に、温泉に行くことになった。その名も“山伏の湯”。1時間以上もかけてゆっくりとお湯に浸かり、顔も洗った。これほどお風呂が有難いと思ったことはなかった。

お風呂からの帰り道、星野さんは「まさかこの時期に滝行をするとは思わなかったな」と本音を漏らした。できれば避けたかったらしい。やはり星野さんにとっても、雪解けの水は冷たいものなのだろう。ちょっとホッとした。

もうお腹には何も入っていない。正真正銘の空腹状態だ。いよいよ待ちに待った精進料理をいただくときが来た。巨大な盃でお神酒を少しいただく。うまい!星野さん曰く、「うちのカミさんの精進料理はうまいぞ」とのこと。修行中は少ししか食べてないので、お腹がビックリしないようにと、野菜などを中心とした味付けも控えめの優しい料理なのだそう。

さっそくいただく。どれもこれも手が込んでいる贅沢なものばかりで、餓鬼界の経験としての早飯から一転して、深い味わいをゆっくりと堪能することが出来た。一つひとつが有難くて有難くてしかたがなかった。いつも何でも手に入り、残してしまうほどの食糧がある、というのは、逆にこの有難くいただく気持ちを奪ってしまっているのだ、と心から思った。

3日間の修行を終えて

3日間の山伏修行は、あっという間に終了した。こんなに濃厚な体験ができるとは、はっきり言って考えてもいなかった。僕にとって強烈だったのは、やはり滝行。あとに引き下がれない状況で、本当に気合が入ると、人の体というものはかなり凄いものだ、ということ。そしてさらに、人と自然の関係には、まだまだその奥がありそうであること。

それから、修行のあとは、何をしても、何を食べても、本当に有難く感じた、ということ。日頃の生活をいつも修行のようにすることが無理だけれども、たまにそのことを思い出せるようにするだけでも、だいぶ違うのでは、と思った。

また、日頃の生活には、「あれがないと困る」「これをしないとまずい」「こんなことをしたら大変だ」といったものが多いが、実は普段僕らはそのことに捉われすぎているのではないか、とも思った。いろいろ削ぎ落としてみると、「なんだ、なくても大丈夫なんだ。体が対応してくれるんだ」と感じることが多くて驚いた。

山伏・星野さんのアドバイス「まずは体験してみなさい」通りに、今回は体験して感じて、それをありのままにお話させていただいた。興味をもたれた方、もっと知りたい方等は、ぜひ大聖坊に連絡してみてもらいたい。 奥様の精進料理だけいただく、ということもできるようですよ。

大聖坊
山形県鶴岡市羽黒町手向字手向99
TEL.0235-62-2031
https://www.facebook.com/daishobo

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