2010.11.22
僕たち都会に住む人間にとって里山という言葉はとても心地よい響きだ。日本人にとって里山は故郷のようなものだが、その里山で今、里山文化がもの凄い勢いで失われている。里山を守り、育んできたコミュニティの多くも、人口の激減でその存続さえ危ぶまれているところが多い。しかし、例えば、新潟県上越の中ノ俣という限界集落では、わずかな人数の年寄りたちが素晴らしい里山文化や智恵を残して行こうと懸命に頑張っている。そんな里山に興味をもって通い出して間もなく「摘み草料理」に出会った。
「摘み草料理」とは、ふだんは見向きもされない雑草とよばれている草も食材として注目し、料理することだが、地域の食文化を活かしながら料理するということもあり、里山とは無縁ではない。ひとくちに雑草といっても薬効のあるもの、健康に良いもの、風味のいいものなど様々な特長があり、うまく調理することで、その特長を活かすことができるのだ。雑草だからと言ってバカにしてはならない。その「摘み草」の生みの親、名付け親は摘み草料理家の篠原準八さんである。なにしろ摘み草料理歴30年以上という野草に関してなんでも知っている凄い人なのだ。現在では、篠原さんのお弟子さんは全国で増殖中、かくいう僕もその一人で、先日、草津温泉で行われた「第10回摘み草サミット」に参加して来た。これは毎年行われる摘み草のお祭りで、全国から篠原ファンが集まって開催地の景気を盛り上げると同時に、摘み草料理を通して地域の文化も知ってもらおうというイベントだ。
篠原流の摘み草料理の面白さは、豊富な野草の知識から生み出される。例えば、フキノトウは春のものと思われているが、秋には地中で来るべき春の準備をしっかり整えている。そんなフキノトウを見つけ出して、一足早い春の味を楽しんでしまうというように、ひとの気づかないことをやるのだ。上についてるフキの小さな葉はてんぷらにすると何ともいえない香ばしさだ。秋のよもぎも美味しい。秋に芽を出すというフユノハナワラビ、もみじと共にてんぷらにするとちょっとしたおつまみになる。
では、草津ではなにが篠原さんの目にとまったのだろうか。それは笹である。朝、篠原さんと旅館の周辺を歩いてみると熊笹がやたらと多いことに気がつく。その熊笹の葉のパウダーでうどんを作ってみては、という篠原さんの思いつきで、さっそく昔からあった"とうじうどん"に笹パウダーを練り入れてみることになった。
昔この地方ではいろりが生活の中心だった。吊るされていた鍋の中はいつも具沢山の汁で満たされていて、お客が来ると、うどんをその汁とともに温めてもてなしたという草津伝統の"とうじうどん"。いま新たに"笹入りとうじうどん"を草津名物として展開して行くという。温泉ばかりでなく新たな文化作りに地元の住人も動き始めたといっていいだろう。
里山の文化とは人が生きて行くことで自然と折り合いをつける智恵にほかならない。僕の里山行ではこのような隠れた文化に触れたり見つけ出したりすることとその周辺の撮影が目的だ。食ばかりでなくさまざまな文化にも巡り会いたいと思っている。