#03 冬を乗り切る里山レシピ | 003 かくも美しき里山の年寄りたち 佐藤秀明 Hideaki Sato | 日本列島 知恵プロジェクト

#03

文・写真:佐藤秀明

2011.01.28

保存の知恵で冬をしのぐ

新潟県上越の中山間部と言えば旨い米と冬の降雪量の多さで知られている。どこまで積もってしまうのだろうかと心配になるほど豪快に降り続く。この上越にある中ノ俣や桑取谷に住む人に雪についての思いを尋ねると、「きれいだよー」と笑顔で答える人が意外に多くて驚かされる。上越の冬は厳しいけれども一方でとても美しい季節でもある。以前、沖縄の竹富島で「砂浜を静かに濡らしながら降る雨はいいよー」と、海にかかる虹を見ながらしみじみと言ったお婆を思い出す。雪も雨もその土地の人にはありがたいものなのだ。

だが、一度雪に覆われたら外へ出る事もかなわない。特に中ノ俣は四方を山に囲まれていて、集落は雪の吹きだまりのような所だ。だから除雪機等がまだない昔はひたすら春の雪解けを待つしかなかったのだ。町へ買い出しに行けない雪国の人々の胃袋を支えるための冬の食料は、保存に耐えるように工夫して蓄えておかなくてはならなかった。そんな保存の知恵が今も上越にはたくさん残っている。

冬仕度は春からはじまる

春はここ上越が最も光り輝く時。南から暖かい風がやってきて雪を解かすと、それまで雪に押しつぶされていた大地から山菜が一斉に芽吹く。雪と青空と花と緑が同居する季節であり、香りたつ野山はたちまち食料庫と化す。土手いっぱいに咲き乱れるカタクリの花はおひたしに最高だ。昔はカタクリの花の根から片栗粉は採ったものだ。フキノトウだって無尽蔵にある。コゴミにウドにワラビ、みーんな美味しい。ワサビの葉の下で雪解けの水が躍りながら流れ、大地はどこを見渡しても美しい。

しかし、春が来たからと言って浮かれてはいられないということをここに住む人はよく知っている。冬に向けての準備はこの時期から始まる。採れた山菜は、乾燥させたり塩漬けにしたり、保存するためにやっておかなくてはならない作業がいくつもある。例えば、ゼンマイ。自生したゼンマイを摘んだら、茹で、手で揉み、天日で乾燥させる。乾かしてからさらに揉み、乾かしては揉むという作業を繰り返し行う。そうやって作られた干しゼンマイは最強の保存食である。昔は、上越と同じく雪の多い地域では春になると山奥に建てた小屋で一家揃ってゼンマイを採りながら暮らした人達がいた。そんな人達がゼンマイを背負って里まで行き来した細いゼンマイ道は今はほとんど見る事もなくなった。われわれ都会の人間が食べていた干しゼンマイはこういう人達の作ったものだった。

桑取谷や中ノ俣の集落では自分達で食べるゼンマイは自分達で作るのが今でもあたりまえだ。だから春になると昔と変わらずにあちらこちらでゼンマイを干す風景に出会う。時にはおばあちゃんがゼンマイを揉んでいる風景に出会う。

一年かけて作った冬のごちそう

稲刈りが終わり、秋も深まっていよいよ雪の季節が近づいてくると、農家はどこも吊るされた野菜や果物で飾られる。軒先に細かく切り刻んだ大根や、お茶にするための薬草類、柿などががずらりとぶらさがっている光景に出会う。全て冬のために天日や寒風にさらして乾燥させているのだ。太陽の光を浴びさせる事によって栄養価が高まったり、ちがう栄養分が生まれたりするので、天日で干す前と後では、同じ野菜でも全く別の味わいになり、より美味しくなる。

毎年冬期の共同作業などの後に行われるねぎらいの食事会に呼ばれると、次から次へと野菜の煮物や漬け物が出て来るので嬉しくなる。ご馳走の食材のほとんどがこの冬のために彼等が一年かけて作った保存食だ。つくづく人間の偉さと知恵の深さに感心させられるのである。

通常の野菜類の保存方法も寒い雪国でないとお目にかかれないような工夫がされているので、農家の納屋等をちょっと覗いて見るのも面白い。

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