#12

文・写真:佐藤秀明

2013.01.16

水に培われた暮らしの知恵

郡上八幡は岐阜県の中程、長良川の上流に位置し、奥美濃の深い山々を源流とする吉田川、小駄良川など三つの川が合流する所にある。戦国時代末期にはこの地形を利用し、川を天然の壕として城が造られた。ここに住む人々は、水とのつき合い方を歴史の中から学び、古くから生活の中で育んで来た。郡上八幡の貴重な遺産である清流の文化は、私たちが学ぶべき知恵の宝庫といっていい。

この町を取り囲む山々からの冷たい水は、町のいたる所で湧き出ていて、人々の暮らしになくてはならないものとなっている。なにより町中を奔放に流れる用水の音が何処へ行っても何をしていても耳をくすぐるように聞こえてきて気分がいい。

用水路の水を引く「セギ」の知恵

この町に住む人々が水とどのように係わり合ってきたのか、どのように水を活用しているのかは、町を歩いているといたる所で見つける事が出来る。山間の狭い場所に家が密集している郡上八幡は、過去に数回大火に見舞われた。そこで、時の大名、遠藤常友が防火の目的で用水路を築造したという。今でも人々は火事にはとても神経質だ。だから消火用のバケツがどの家の軒先にもぶら下がっているのを目にする。

道路の側溝を流れる用水はどこもとてもきれいで、その水は生活にも利用されているのである。その方法はというと、セギと呼ばれる堰板を使って、用水路の水の流れの方向を変えて家屋の中に引水したり、流水の量を調整するのだ。今でも時たまこの用水で洗濯する光景を目にする事がある。雨が降って用水の水量が限界に達した場合は、町中を流れる川へと流し出すために複雑な堰が町のいたる所に設けられている。

湧水を引く「水舟」の知恵

用水の他に山からの湧水がある。これは最も生活に密着した大切な水だ。この湧水を効率よく使うためのシステムが水を竹やパイプで引き込んだ『水舟』という二槽、または三槽からなる郡上八幡特有の水槽である。最初の水槽で飲用や食べ物を洗い、次の水槽で汚れた食器などを洗う。ここで出るご飯粒や食べ残りはそのまま下の池で飼われている鯉や魚などの餌となる。水はこのように循環しながら自然に浄化されて川へと流れ込む仕組みになっている。

ほとんどの家の敷地内にこの水舟はあり、町の中にも何カ所か設置されているので、町歩きで乾いた旅行者のノドをうるおすのに一役買っている。最近は利用される機会も少なくなったが、水舟はこの町で暮らす人々の“水を大切に思う心”を象徴しているのではないだろうか。

川の水を引き、活用する多彩な知恵

郡上八幡を囲む川、長良川や吉田川も人々の暮らしに一役買っている。ご存知、長良川は鮎釣り、鮎料理のメッカでもある。名代の鮎釣り師を何人も輩出していることからも鮎釣りに情熱を燃やす釣り師の多い事でも知られている。側溝を流れる用水を自宅に引き込んで料理用に鮎を飼っている人も多い。鮎を食べさせる梁もシーズンには観光客で大にぎわいである。

吉田川は冬の風物詩、郡上本染めの大豆の搾り汁を使ったカチン染めで染められた『鯉のぼりの寒ざらし』がある。毎年、大寒の日に雪解けの冷水に生地をさらして引き締め、色を鮮やかに出すのである。

郡上八幡博覧館
岐阜県郡上市八幡町殿町50 TEL.0575-65-3215
営業時間:9:00~17:00(12/24~1/2は休館)

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