2016.05.24
茶の原産地は中国の雲南省あたりではないかと言われている。その茶という飲み物が体に良い不思議な効力があることがわかると、6世紀ごろには中国全土でその存在が知られるようになった。しかし、茶が文化として広まるのは、陸羽(りくう)という人が、お茶の専門書「茶経」を著述した8世紀になってからだ。その全3巻にはお茶の淹れ方から飲み方、効能、作法などお茶のすべてが書かれている。いわばお茶のバイブルだ。また、当時の中国、唐の高度な文明を学ぶために、中国周辺の地域から来ていた留学生によって、喫茶の風習が各国に伝播した。
中国では茶の起源だからといって誰もが茶を楽しめたわけではなく、つい最近まで貧しい人にとっては贅沢品だったらしい。金持ちの家に招かれた時に、茶葉が二三枚浮いた薄い茶の色をした湯をふるまわれて喜んだという話があるくらいだ。
日本には奈良・平安時代に遣唐使などによってもたらされたと言われている。茶の栽培は1191年、臨済宗の開祖栄西禅師が宋の国から持ち帰った種を佐賀県で播いたのが始まりだ。そしてその後、宇治や駿府(静岡)に広がっていった。
現在、日本の経済的茶産地の北限は、新潟県の村上市と茨城県の太子町を結んだ線の付近とされていて、それ以西の地域で茶の栽培が広く行なわれている。中でも静岡県は、全国の茶栽培面積、荒茶産出額ともに日本一というので、4月の末、茶摘みの季節にとりわけ生産量の多い掛川を訪ねた。
茶摘み時の掛川の自然風景は目に優しい。柔らかな新芽が澄んだ空気の中ですくすくと育っている。薄黄緑の若葉に覆われた茶畑の丘の連なりは懐かしい日本の風景そのものだ。
茶摘みと言えば、『夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る……』という茶摘み歌と、赤いたすき姿の女性たちが茶葉を摘んでいる姿を思い浮かべてしまうが、そんなのんびりとした茶摘みの風景は昔の話だ。現在は大きなバリカンのような機械で刈り取っていく。全国でも屈指の産地だけあって需要も多く、機械に頼らざるを得ない。
機械化された部分もあるが、伝統的な農法もしっかり残っている。例えば、東山や大野地区で見られる「茶草場(ちゃぐさば)農法」だ。これは茶畑に草を敷く農法で、土壌の水はけや保水性に優れ、お茶の美味しさを決める良い土ができる。敷く草は茶畑の周辺の草場に見られるススキやササで、その草場には多様な動植物の存在が確認されていて、全国から失われつつある里山の草地の生物多様性の維持に役立っている。東山の茶畑の回りに見られる茶草場の面積は茶畑の7割という広さで、そこに咲く野花や生き物が季節を知らせてくれるという。この茶草場農法は2013年に世界農業世界会議で「世界農業遺産」※に認定された。
※世界農業遺産は、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり形づくられてきた伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープ、生物多様性などが一体となった世界的に重要な農林水産業システムを国連食糧農業機関(FAO)が認定する仕組。 世界では15ヵ国36地域、日本では8地域が認定されている。
栽培方法や製造方法によってさまざまな種類のお茶が作られているが、大きく二つにわけることが出来る。日本や中国でよく飲まれている、茶葉を加熱して発酵を妨げた緑茶と、葉を摘んで揉み、葉に含まれている酸化酵素の発酵を促した発酵茶だ。そこからさらに分類されるため、種類が多過ぎて覚えきれないが、私たちに馴染みの緑茶と言えば煎茶、玉露、抹茶、番茶、ほうじ茶、玄米茶と言ったところだろうか。しかし、緑茶にはまだまだ十種類以上あるそうで、なかなか奥が深い。発酵茶は緑茶ほどの種類はないが馴染みのお茶として、紅茶や烏龍茶などがあげられる。
東山茶業組合で美味しいお茶になるまでの製造工程を見学させていただいたが、オートメーション化されたなかにあっても香りや色合いなど、お茶の品質を維持するためには職人さんの感覚が必要なのだと納得させられる。最後はお茶の入れ方、たしなみ方になるが、これもお茶の種類によって千差万別。掛川には茶を楽しみながら学べる茶処が多い。
茶畑の近くで、お茶が飲めて、買えるお店「東山いっぷく処」
http://www.higashiyamacha.jp
お茶の葉の天ぷらや、茶葉の炊き込みご飯もうまい。ぜひ試してほしい。茶草場農法で作られたお茶も購入できる。品種は「やぶきた」、深蒸し茶が中心になるが、ほうじ茶や紅茶、抹茶などもある。今は、深蒸しの新茶も出揃っている。
庭園で呈茶を楽しめる「清水邸庭園・湧水亭」
http://www.city.kakegawa.shizuoka.jp/kankou/spot/rekishibunka/shimizuteiteien.html
清水邸庭園の湧水亭では美しい庭園を眺めながらお茶を楽しむことが出来る。ここは江戸元禄時代に回船問屋を営んでいて、家の近くに船着き場があったそうだ。抹茶、薄茶は「お茶を点てる」、濃茶は「お茶を練る」という。
掛川城公園内にある、景観と調和した趣のある茶室「二の丸茶室」
http://kakegawajo.com/guides/tya/