#01

文・写真:横塚眞己人

2011.04.08

植物と人の暮らしの深いつながり

ボクにとって、沖縄県の西表島は、第二の故郷のようなものだ。1985年から1994年までのおよそ10年間、横浜から移り住んでイリオモテヤマネコの撮影をしていた。西表島から横浜に戻ってからは、熱帯雨林をテーマにひたすら赤道付近を歩き回った。その間、西表島を訪れることがめっきり減り、1年に1度なんていう年もあった。

ところが、ここ2~3年は、西表島へ行く回数と滞在日数が急激に増えた。ボクの中で、いわゆる"西表島がえり"がおきた。世界のあちこちをまわり、地球の中の西表島として再度見つめなおしてみることができた結果、ボクが滞在していたときに気づかなかったテーマがどんどんみえてきた。

以前は、動物ばかりに目を向けていたが、植物に強く興味を持つようになった。植物は陸の生態系の基本であることがしっかりと理解できてから、植物をテーマに作品を作りたくなった。そして、その植物と人の暮らしのつながりは特に深い。つながりの中に知恵があり、その知恵は人々が厳しい自然の中を生き抜くために生まれてきた。

昨年(2010年)はサガリバナという植物の撮影で、何度か西表島を訪れた。サガリバナは、奄美大島以南の南西諸島に生育する小高木なのだが、夏季に美しい花をさかせる。花は夜に咲かせ、朝に落としてしまう。最盛期にはたくさんの落ちたサガリバナの花が川の水面を漂い、幻想的な風景となる。それが、西表島の観光資源にもなっている。

サガリバナを利用した知恵の痕跡

サガリバナの撮影をつづけていると、人間の暮らしと結びついてきた。昔はサガリバナの木はいろいろと利用されたようだ。例えば、有毒な果実は魚毒に利用されたらしい。反対に、毒抜きをして食用にしたこともあるようだ。また、材がやわらかいので、火がつきやすいことから発火のために使われたこともあるらしい。食料調達のため、食料として、火を使うためと人々の暮らしの知恵としてサガリバナが使われてきたようだが、これはすべて過去形の話だ。西表島も、食料はスーパーで買える時代になると、そうした知恵も過去のものとなり、人々のサガリバナの利用は、観光産業だけとなった。

ある日、サガリバナの撮影中に、イノシシ避けの垣根を見つけた。それはサガリバナをきれいに一列に挿し木をして作ったもので、イノシシからイネなどの農作物を守るために作られたものだった。

ジャングルの中に、時代とともに風化しつつある知恵の痕跡を見たのだった。

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