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文:雨宮尚子/写真:志田美穂子

2012.6.05

私は今、東京でイラストや絵本の仕事をしながら、山梨で桃を育てています。絵は自分で選んだ仕事、桃は実家の家業です。週末を中心に、東京と山梨を行ったり来たりしています。

桃で育ててもらった私が、今度は桃を育てる……。ごく自然で、ちょっとロマンチックなこの絵本のような生活が、なかなか思うようにいきません。

農家ではひとりひとりに、沢山のものが求められます。手先の器用さ、根気の良さ、大胆さや決断力、体力はもちろん、作業機の操作に、農作業全般への想像力・・・。誰にでも多少は得手不得手があると思うものの、私のような偏った性格になるとその差が大きく、「で、できない……」と打ちのめされることもしばしば。農家育ちだから、どんな作業もらくらくクリア!といかないのが、現実のつらいところです。

農婦としての出来はともかく、私は桃畑が好きです。畑は自然の持ついきいきとした魅力を、刻々と変わる色で、形で、風で、味で、力強く表現してくれます。この宝箱のような世界を描き残したいと、時には農作業そっちのけで、メモをとったりスケッチをしたりしています。東京に戻り、机に向かっていても、集中力が途切れると「畑は今どんな感じかな?」「桃は大きくなっているかな?」と心は桃畑へ。ここに天気の心配が入ると、もう絵の仕事どころではありません。

この二足のわらじ、私のサイズに合っていないかも……?と悩む間に、今年も畑では花が咲き、実がつき、葉がしげり、待ったなしのスタートを切りました。
「あれこれ考えても仕方ない。とりあえず……桃だ!」
という訳で、おちこぼれファーマーの私も急いで筆を置き、光あふれる桃畑へと出て行くのです。

あまくおいしい桃づくりと、バタバタ泥だらけな桃農家の一年を、猫のシロネとクロネを案内役にご紹介していきたいと思います。

絵本作家 雨宮尚子

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