山形 陸奥の国の旋律と心に残る日本の名歌

#04

文・写真:上妻宏光

2019.08.28

「花笠音頭」
(日本ロレックス presents
「上妻宏光 民謡アーカイブ 特別公演 『山形 陸奥の国の旋律と心に残る日本の名歌』」
2019年6月11日 浜離宮朝日ホールにて演奏)

記念すべき第5回公演は「山形民謡」と「日本の名歌」がテーマ

2019年6月11日、「民謡アーカイブ」のコンサートが、2年ぶりに築地の浜離宮朝日ホールで開催となりました。

今回は記念すべき第5回という節目にあたる特別な公演という意識もあり、POPSや洋楽の表現をしつつも、根底に“和心”を持たれているボーカリストの方々をお迎えし、日本人の潜在的な感覚を呼び起こす内容にしたいと思いました。

第1部で、幼い頃から“生”の民謡を聴く環境にあったシングライクトーキングのボーカル、佐藤竹善さんをお迎えして日本の名歌を披露。第2部では、僕のアルバムで現代的表現の最上川舟歌を歌っていただいた民謡出身でシンガーの朝倉さやさんをお迎えして山形民謡をお聴きいだたく特別プログラムで構成しました。

第1回公演のあと、僕は日本列島知恵プロジェクトのサイトに、以下のようなことを書いています。
「民謡アーカイブでは、民謡を二つの観点から捉えてご披露したいと考えました。一つは伝統の継承という観点から。もう一つは伝統を踏まえたうえでの民謡の新たな解釈・表現に挑戦したいという観点から。民謡に新たな息吹を与え続けること、それは現代にあって、民謡に携わる者の使命と考えています。」

過去4回の公演では、自分なりにその使命を全うすべく努めてきましたが、今回の公演では、多くの民謡を生み伝えてきた山形民謡と、時代を超えて愛される近現代の名歌、つまり歌い継がれる楽曲に共通するものとは何かを探り、今後も民謡をアーカイブし続けていくためのヒントにしたいと思いました。

僕と佐藤竹善さんは「Standard Songs」というTourで3年以上ご一緒いただき、アーティスト活動の表現上には違いはあるかも知れませんが、竹善さんの日本文化に対する“愛情”を感じております。その上で音楽を通じた関係性が、とても心地が良いのです。

佐藤竹善さんのボーカルと辻本好美さんの尺八が調和する日本の名歌

第1部は、伊賀拓郎さんのピアノ、はたけやま裕さんのパーカッションというお馴染みの編成による、「竹田の子守唄」「田原坂」といった古典民謡をやや現代的にアレンジした演奏でスタートしました。

そのあと、いよいよ佐藤竹善さんが登場。「昔の曲は、シンプルで短いけれど、一つひとつのメロディーが、とても大切に作られている気がして、心に沁みますね」と言う竹善さん。

そんな竹善さんが、この日のために選んでくれたのは、往年の映画スター、森繁久彌さんが歌ってヒットした「知床旅情」、坂本九さんの代表曲の一つ「見上げてごらん夜の星を」、そして戦後の日本復興の象徴と言っていい美空ひばりさんの「りんご追分」という納得の3曲です。

後者の2曲には、尺八奏者の辻本好美さんも参加。尺八という伝統楽器が持つ、叙情的でありながら力強い音色と、竹善さんの甘いボーカルとが調和して、馴染み深い日本の名歌が、新たな輝きを放ちながら、会場の皆さまの心を動かしました。

ちなみに、竹善さんは青森のご出身。津軽三味線奏者の僕とは、「青森」で繋がっています。そんな二人にとって「りんご追分」は特別な曲。青森の自然豊かな情景を思い浮かべながら、心を込めて演奏しました。

会場全体で盛り上がった「お囃子」の大合唱

津軽民謡の伝統の香りをそのままに、僕の独奏による「津軽よされ節」で始まった第2部。しかし2曲目は、それとは対照的に僕のオリジナル曲「紙の舞」を演奏しました。これまでロックをはじめ、様々なジャンルの演奏家の方々とセッションをしてきましたが、そのたびに間やリズムの取り方など、民謡から学んだ沢山の事が、現在の自分の演奏に生かされています。民謡アーカイブのコンサートでは、そうした経験に基づき生まれた楽曲をお伝えしたいと思っています。「紙の舞」も、そんな楽曲の一つです。

さて、「紙の舞」に続いて、ステージには歌手、朝倉さやさんとお囃子の西田美和さんが登場。ここからが山形民謡の部のスタートです。お囃子とは、文字通り「はやしたてて、場を盛り上げる」ための掛け声のようなものですが、西田さんによれば、「緩急自在、いろいろな表現がある」そうで、歌い手のキーに合わせたり、その場の空気を読むことを求められたりと、唄い手の数だけお囃子があるといっても過言ではないそうです。

そんな百戦錬磨の大御所、西田さんのお囃子はさすがです! 「米沢盆唄」「真室川音頭」と立て続けに披露した山形民謡では、若々しく元気で、どこまでも伸びやかな朝倉さんの歌声が、西田さんのお囃子を得て、さらに迫力を増していました。「真室川音頭」では、西田さんご指導のもと、会場の皆さまにも参加していただき、「はあ、こりゃ、こりゃ」「はあ、どんとこい、どんとこい」のお囃子の大合唱となり、大いに盛り上がりました。

この日の山形民謡は、どの曲も明るく、楽しく……

第2部の3曲目「最上川舟唄」では、尺八の辻本好美さんが、着物姿で再び登場。ここからエンディングまでの「酒田甚句」「花笠音頭」の演奏では、民謡アーカイブコンサートならでは、新たな民謡表現にチャレンジしました。

とりわけ、日芸舞踊団 若竹の皆さんも加わっての「花笠音頭」は、誰もが心踊る圧巻のステージになりました。山形民謡だからといって、どの曲も明るいわけではありませんが…この日の山形民謡は、“民謡日本―”に輝きながら、現在はJ-POPのフィールドで活躍されている朝倉さやさんをお迎えしたことにより、津軽三味線、尺八、唄い手、お囃子、舞踊、加えてピアノ、パーカッションが一体となり、あらためて民謡表現の様々な可能性を想わせる表現で締めくくられたかと思っております。

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