今回の主役・イイダコは、ミニチュア版のタコ。大きくても体長20センチほど。水深5~10メートルの浅い砂泥の海底が住み処。
春に生まれ、寿命は1年。秋には10センチくらいの大きさになり、イイダコ漁には絶好の季節になる。冬になると、メスの胴(頭のように見える部分)には米粒のような卵が大きくなってくる。
イイダコ漁にはラッキョウを餌にする方法以外に、タコ壺による漁がある。このイイダコ専用の小さくて可愛いタコ壺は、弥生時代の遺跡からも見つかっていて、その頃から素焼きのものが使われていた。高さ15センチ前後のコップに似たすがた。いま使われている蛸壺をぐっと小さくした形で、発見当時、考古学者も「いったい、何に使っていたのだろう」と首を傾げていたそうだ。
大昔の人たちは、マダコよりも先にイイダコを獲って食べていたらしい。
さて、取材は2010年10月5日。秋晴れの東京湾で行われた。
東京からアクアラインを通って、千葉県へ。 出発した袖ヶ浦市にある長浦港はこんな感じ。
今までの取材で訪れた港とはまったく違う風情である。まさに工業地帯ど真ん中の港。海の色も青くない。およそ伝統漁とは無縁の様子である。ところが、この近くでイイダコが釣れるのだ。
早速、埠頭にて着替え。
男はやっぱ、後ろ姿でしょ。背中で語る征夫さんと進藤瑞樹クン。
イイダコの仕掛けを作るところを、ムービーとスティルの両カメラが、すかさず撮影。ラッキョウの匂いが辺りに漂う。ふむふむ。仕掛けはこうなっておるのかあ。うまくできてるなあ。
船上で、東洋の賢人風に黙して座る二人。
お互い、視線は合わさない。それが大人(たいじん)のコミュニケーションなのである。
すぐ近くにはビルのように巨大なタンカーがうようよ。
東京湾のなかがこんなに交通量が多いなんて、海に出ないとわからない。空から見ているだけでは抽象的な理解にとどまるのだ。
「出番はまだかなあ」と首を長くしている尾﨑たまきさん。
「おっ。かかった、かかった」主役のイイダコを撮影する。
のーんびり、秋日和。ここにビールがあれば、最高なんだけどなあ……。
撮影を終えた帰り、潮風に吹かれながら、寡黙な二人も何やら喋りこんでいた。
「東京湾・イイダコ漁」
第16回ロケ 2010年10月