「石垣島・スンカリヤー漁」

第7回ロケ 2009年11月

 前日まで低気圧がいたので、石西礁湖(せきせいしょうこ)には、かなり波が立っていた。
 サバニの断面は三角形をしていて、波を切ってものすごいスピードで走る。だけど、その分ちょっと不安定。
 いつもは信男さんが一人で乗っているのに、取材のため、征夫さん、たまきさん、そしてぼくと4名が乗り込んでいる。
 座っている所と海面は10センチ離れているかどうか。海はすぐそこだ。
 サバニがスピードを出すと、波飛沫(しぶき)をもろにかぶってしまう。
 征夫さんは大切なカメラを潮に濡れないよう、子ども(あるいは大金)を抱えるようにしていた。
 大きな船や普通の漁船では決して味わえない、サバニならではのヒリヒリした、リアルな感覚だ。

 信男さんとたまきさんがサバニに引っ張られていく。
 左舷の信男さんは漁のため。右舷のたまきさんは、獲ったコブシメをすかさず撮影するためだ。
 たまきさんによると、シュノーケルをつけて引っ張られるのは、けっこう抵抗があって大変なのだという。だから信男さんはシュノーケルを付けないんだろうなあ。
 信男さんはコブシメを見つけると、サバニをその上に持っていき、影で押して、すっと静かに止める。そして、取材に気を遣って、「コブシメいたよー」と囁くように教えてくれる。
 それから、すぐさま撮影に入るのだけれど、コブシメを突き刺すのは瞬時の出来事。その瞬間を捉えるのは至難の業。ちょっとでも音が伝わると、コブシメはサーッと逃げていってしまうのだ。

 コブシメを探している最中にタコを発見すると、信男さんが「タコ獲っていいかねー?」と訊いてきた。
 海人(うみんちゅ)としては、獲物がいればすかさず獲りたい。これは世界中どこの漁師も同じだ。
「もちろんです。獲ってください」
 すると、信男さんは間髪を入れず、タコを仕留める。
 イカとタコの墨の色はまったく違うのが面白い。タコは茶色っぽくて薄い色。イカは真っ黒。
 タコの墨は煙幕になる。イカの墨は自分の分身をボコッと噴き出して、敵をまどわす影武者の役割だそうだ。

 漁を終えて、港に戻ってくると、信男さんがコブシメを捌(さば)いてくれた。
 骨を抜き肝をとり、皮を剥ぎ、目も取った。
 どうです? このコブシメの目。
 信男さんが言っていたように、黄色い可愛い目をしている。若狭のコウイカの恨みがましい目とはだいぶ違う。
 ちょっとゲゲゲの鬼太郎のお父さんのようだ。

 夕食は、信男さんの馴染みの店にみんなで繰り出した。
 今回の取材で大変お世話になった海業(うみわざ)観光の比嘉康雅(ひが・やすまさ)さん。ぶっとい腕と肝っ玉は石垣海人(うみんちゅ)の兄貴分。島在住の写真家・西野嘉憲(にしの・よしのり)さんは海人の心にたってずっと取材を続けている。
 真っ黒に日焼けした海の男たちとの酒盛りだ。
 まずはビールで乾杯。その後は、島酒(泡盛)のボトルがアッという間にあいていく。
 信男さんが獲ったコブシメと島ダコの刺身。(シークワサーを搾った醤油で食べる)
 コブシメとニラのバター炒め。
(肝であえて炒める。とても深い味わい)
 コブシメと島ダコの握り寿司。
 コブシメの墨汁。
(こってりと滋養満点。超美味!)
 今回の取材に参加できなかった是永クン、ごめんねー。泡盛、めっちゃ美味いでえ。こんど一緒に飲もうねー。まだ、是永クンは泡盛体験ないもんね。
 と、宴たけなわの頃、
 出ましたっ!
 真っ赤なシャツ(還暦祝い・お子さんからのプレゼント)を着た信男さんのタコ踊り。
「ぼく、身体、柔らかいの」
 聞けば、なんと信男さんはかつて社交ダンスも習っていたのだとか。そのダンスクラブで奥様と知り合ったのだそうだ。
 一同、腹を抱えて笑い転げ、宴はますます盛り上がり、石垣の夜は深々と更けていくのでありました。
(やっぱり魚が獲れると、酒が美味いですねー)

吉村喜彦


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左舷に信男さん、右舷にたまきさん。カメラを懐にしまい込む征夫さん。


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ウェットスーツを着終えて一言。「楽な商売じゃねーぜぇ!」

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たまきさんのタンクに流れ藻が絡まる。

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シュノーケルをつけてサバニに引っ張られるのはけっこう大変。

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この茶色いのがタコの墨。
信男さんがタコの目の間にある脳をガリッと噛んで、止(とど)めをさしている。


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こちらの黒いのがイカの墨。
コブシメを仕留めた瞬間をたまきさんが水中で撮影しているところ。


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取材を終えて、波とスリッパを枕に。

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左が比嘉康雅さん、右が西野嘉憲さん。


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コブシメの墨汁は、かつおの出汁でコブシメの身と豚肉を煮込み、
イカ墨を入れて塩で味を整えたら出来上がり。滋養強壮にぴったりの一品。


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信男さんの華麗な踊り。


写真:吉村喜彦