竹富島で「ンゾー」と呼ばれるウデナガカクレダコ。
隣の小浜島に行くと、「ムンツァン」、石垣島では「ウムズナー」と呼ばれるそうだ。 たった数キロ先の島でこんなに名前が違うのだ。
とても不思議だけれど、沖縄ではシマといえば集落のこと。シマ毎に言葉が違い、文化が違うと言われる。タコの名前が、まさにそれを証明しているわけだ。
沖縄島に行くと、ウデナガカクレダコの名前は、「シガヤー」「ティーチラー(手がちぎれるもの)」などに変わるそうだ。
ティーチラーというのは、シンプルでわかりやすいネーミング。
実際に、今回の取材でも松竹さん、大山さんが獲ったタコの何匹かは脚がちぎれていた。(「沖縄では、どうしてか、脚といわず手と言うんだよねー」と大山さん)
このウデナガカクレダコは、熱帯の西太平洋海域に分布。アメリカの科学誌に「2本脚で歩く」という論文が発表されたタコなのだそうだ。
本文中で、松竹さんが「タコが立っていた」と話していたが、ほんとに2本脚で立っている姿を見たのかも――。
沖縄島の泡瀬干潟では「ンヌジグヮー」と呼ばれ、釣り糸にイモガイを等間隔でくくりつけた仕掛けで獲っているそうだ。
このやり方は、平安座島(へんざじま)が発祥で、松竹さんも「あの辺りは一番ンゾーが多いそうだよ」と言っていた。
取材当日、松竹さん、大山さんも、これと同じような仕掛けを持ってきて、貝は「メス貝(チョウセンフデ)」を付けていたのだけれど、残念ながら一匹も獲れず……。
やっぱり「オス貝」が良いみたい。
取材で獲ってもらったンゾーは湯がいて、まずは何もつけず、次いで、松竹さん手製のドレッシングで食べてみた。
やわらかくて、シコシコ弾力があって、普通のマダコよりもはるかに美味しかった。
松竹さんは、戦時中、軍の徴用で西表(いりおもて)の由布島(ゆぶじま)に行き、茅葺き小屋を作る作業を終え、やっと一息ついて島の仲間とンゾーを獲ったことがあるそうだ。
当時はたくさんンゾーが獲れ、それを大きな鍋で湯がいたという。
そのとき、ある先輩が、茹であがるンゾーを取りあげるために、アダンの葉っぱを鍋に差し込んで、クルクルッと脚をからげた。
アダンの葉にはギザギザがいっぱいあって、大きなフォークみたいになっている。タコの脚がそのギザギザに絡みつき、一気に掬いあげることができたのだった。
「やっぱり先輩は賢いなあ」と思ったのが、松竹さんの忘れられない思い出。
過酷な軍作業の後に、みんなでンゾーを獲り、笑いながら食べたその味は今でも忘れられないそうだ。
大山さんのお気に入りは、薄く切ってヒラヤーチー(沖縄のお好み焼き)に入れて焼く食べ方。
たしかに、タコ焼きのお好み焼き版みたいで、絶対美味しいだろうなあ。今度、ぜったい食べたいなあ。
吉村喜彦
「タコがかかったぞー」の一声に、裾が濡れるのもかまわず、カメラを持って追いかける征夫さん。
さて、どこにタコがいるでしょう?
イノーに仁王立ち。
うーん。いい顔、いい顔。
海に這いつくばりながら撮影するたまきさん。
日曜日は、観光客も多い。興味深そうにンゾー漁を見る人も。
タコ獲れたよー。ぐふっ。
あくまで、タコが主役なのだ。
海岸清掃をする島の青年たち。彼らもンゾー漁はあまりやったことがないそうです。
弁当よりも、まず、撮影。
写真:吉村喜彦