第6回 染織家 石垣昭子 「神のみちびき」

豊年祭が来ると雨が降る
 二〇一二年七月二一・二二日
稲の収穫に感謝をし、翌年の豊作を祈願する「豊年祭」が石垣さんの住む祖納で行なわれました。
毎年、この日は、朝から『仲良田節』という稲の豊作を祝う歌が村中に鳴り響き、
大綱を作るための稲穂が道を埋め尽くします。祭のエネルギーが充満していました。
祖納の人たち曰く、この豊年祭を機に雨が降るのだそうです。とても不思議だったのですが、
村の人たちが三線を持ってこの歌を歌い出すと雨がパラパラと降ってくるのです。
この『仲良田節』は神歌とされていて、初穂を迎えた日から豊年祭の行なわれる七月(旧六月)にだけ歌うことが許されています。
年寄りも若者も、子供も、それぞれがそれぞれの仕事につき、祭を支えていました。生活と祭が一体となっている。
村の人たちが総出で祭の準備をしている。こんな光景がまだ見られるのかと嬉しくなりました。

宿命の女ツカサ
 「豊年祭が近づいてくると『アーランチェを織らなきゃ』って言っていた祖母の言葉を思い出します」と石垣さん。
「アーランチェ」とは豊年祭で神事を行なう女性が着るチョマ(苧麻)の打掛けのこと。チョマの糸には霊力があると言われていて、
昔は各家庭に置いてあったそうです。びっくりしたり事故にあったりして魂が抜けてしまった時にはチョマでミサンガを作って
手首や足首に縛って魂を戻しました。家族が亡くなった時には「魂分け」といってチョマを七つの玉に縛って家族や親戚で分ける儀式があります。
そのチョマで織った打掛けを纏うことによって、日常の主婦という姿からツカサ(神司)という神に仕える女に変身していくのです。
ツカサは今でも世襲で受け継がれていきます。そのような由(よし)のある女性は生まれながらにして、その神に仕えるというお仕事に従事していくこととなるのです。

神のみちびき
 昔、ツカサを引き継ぐことになった女性は、庭に苧麻を植えて育て、それをためて、紡いで、織り、自分で打掛けを作ったそうです。
 その数年に渡る過程が心を育て、苧麻布に霊力を注いだのだと石垣さんは話してくれました。今では祖納の祭に使う打掛けはその機会がある度に少しずつ石垣さんが作っています。
「最近になってやっと「根の部分」をしっかり確認して生きていけば間違いがないのだ、と実感出来るようになりました。
ここにある植物、人、そしてそれらとの関わり合いがとても大切なのだと思います。やはり集落の中でツカサの役割というのは非常に大切なのです。
いつの間にかその周辺に関わりながら仕事をやっていくということがライフワークになっていきました」
 石垣さんのお話を伺っていると、人にはそれぞれお役あって、それぞれに神のお導きがあるのだと、思えてきます。