海人の自然観

西野嘉憲
フォトグラファー

沖縄県の最南端、八重山諸島の石垣島に移り住んで5年。これまで奄美大島のハブ捕りや北アルプスの熊猟など、人と自然の関わりをテーマに写真を撮ってきたが、ここでのテーマは海人と呼ばれる漁師たちだ。

石垣島の海人は、明治時代に沖縄本島南部の糸満から移り住んだ漁師がルーツ。追い込み漁やカツオ漁を主体に発展してきたが、昭和に入ってからは多くの漁法が生み出され、現在20数種の漁法が島に根付いている。サンゴ礁から大海にいたる多様な環境と、亜熱帯の豊富な魚種に合わせた各漁法は、専業の海人が営むことがほとんどだ。

つまり、石垣島の海人は、漁法によって海の生態系に組み込まれているのだ。

生態系のなかで生きる海人は、「野生」そのものだと感じるときがある。

それは海の生き物をいささかの躊躇も見せずに殺戮するとき。そしてもうひとつ、環境の変化に絶えず順応しながら生きていることを知ったときだ。

生きるために獲物を殺す。その過程には自らの命もかかっているのだから、同情の入る隙などありえない。琉球列島では魚介類のみならず、イルカやウミガメ、ジュゴンまでも食用にしてきた歴史がある。

また昨今、オニヒトデが増えてサンゴが減った状況を見ても、「今度はタコやエーグヮー(食藻性の魚)が増えるサァ」と大自然の成り行きに大らかに構える。海人は自然の調整機能を本能的に知っているのだろう。また気候の変動によって過去に獲れた魚が獲れなくなれば、その都度これまでの常識を見直し、漁法に工夫を凝らす。

極度にシステム化された都市では、命に対する意識が希薄になり、環境の変化に対応する能力が低下しているといわざるをえない。もちろん私も含めて。

命と隣り合わせに生き、自然に寄りそって暮らす。──そんな海人の自然観から学ぶことは多いと感じる。

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