漁師さんたちの笑顔をずっと先の未来まで引き継いでいきたい

是永秀麿
ビデオカメラマン

世界で一番おいしいものを食べているのは、日本の漁師さんなのではないだろうか。それは、素材が新鮮であるからだけではない。旬の時期に、一番鮮度を保てる方法でとってきた海の幸の、一番おいしい食べ方を知っているからだ。

本来、日本人の食文化は非常に繊細だ。豊富な食材、場所や時期によって変わる食べ方。これは日本が山がちな島国で、かつ独特の歴史を持つことに加え、日本の自然が繊細な四季に端を発していることと無縁ではない。仕事柄、日本以外の国の自然にも多かれ少なかれ触れてきたが、日本ほど美しい四季を持つ国には、未だにお目にかかれないでいる。

で、伝統漁法だ。伝統漁法は沿岸漁業がほとんどなので、四季の影響をまともに受ける。今、獲物は旬なのか、それより何より、獲物はそこにいるのかいないのか。潮の干満も大切だ。同じ大潮でも、季節によって干満の時間も潮位も大きく変わる。だから漁師さんと話をすると、必ず旧暦が出てくるのが面白い。「あそこのヤマユリの花が咲く頃に・・・」なんて風流な言い伝えが、今でもずっと語り継がれている、それが、日本の漁村なのだ。

都会の暮らしは確かに便利だ。夏でも冬でもオフィスの気温は一緒で、おかげで私のセーターはタンスの肥やしになった。今日がどんな天気だったのか知らないけれど、生活には何も困らない。そういえば桜、いつのまに散っていたな・・・。多くの都会人にとって、四季は重ねる服の枚数と傘を携帯するかどうか以外、関心のないものに変わってしまったのだろうか。でもこれは、世の中が目指してきた、「幸せ=便利・快適」の結果だろう。目標は達成しつつあるわけだ。

情報過多の時代、何が本当で何が大切なのか、それを考える暇もないくらい、次から次へと新しい情報が入ってくる。莫大な情報量を処理できないから、簡単なフレーズやデフォルメされた表現が重宝がられ、そして一人歩きしていく。そんな本当の価値観が分からなくなってきている今だからこそ、たまにはゆっくりと人としての原点に立ち戻って、自分の足下を見つめ直すのは、とっても大切な作業だ。幸せってなんだっけ?昔ながらの方法で獲物を手に入れたときの漁師さんの笑顔、それを私たちがうまいと言いながら頬張る様子を見ているおかみさんの笑顔。このプロジェクトの取材で、私はたくさんの素敵な表情を見てきた。こんな素敵な方たちに出会えて、私は今、とても幸せだ。そしてその笑顔が、これからも、孫の代まで、さらにずっと先の未来まで、引き継がれていくことを願いつつ、さっき獲ってきてもらった海の幸に舌鼓を打つ。うーん、うまい!

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